花粉症の舌下免疫療法とは?効果・費用・治療の流れを専門医が解説
毎年花粉症の症状に悩まされ、「根本的に治す方法はないのか」と考えたことはありませんか。従来の抗ヒスタミン薬は症状を抑える対症療法ですが、舌下免疫療法は花粉症の根本的な体質改善を目指す治療法です。 本記事では、舌下免疫療法の効果、費用、治療の流れについて詳しく解説します。
毎年花粉症の症状に悩まされ、「根本的に治す方法はないのか」と考えたことはありませんか。従来の抗ヒスタミン薬は症状を抑える対症療法ですが、舌下免疫療法は花粉症の根本的な体質改善を目指す治療法です。
本記事では、舌下免疫療法の効果、費用、治療の流れについて詳しく解説します。
目次
花粉症のメカニズム
東京都の花粉症患者実態調査(平成29年12月発行年度)によると、都民のスギ花粉症の推定有病率は48.8%に達し、実に2人に1人が花粉症という時代になりました。10年前の調査では28.2%だったことから、近年急激に増加していることがわかります。
花粉症が引き起こす症状
花粉症は、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、目のかゆみなどの症状によりQOL(生活の質)を低下させるだけでなく、以下のような問題も引き起こします。
- イライラ感の増加
- 鼻づまりによる睡眠障害
- 集中力の低下
- 職場や学校でのパフォーマンス低下
花粉症が起こるメカニズム
花粉症は、正式には季節性アレルギー性鼻炎といいます。スギ花粉やヒノキ花粉などのアレルゲンに対して、身体がアレルギー反応を起こしている状態です。
花粉症が起こる仕組み:
- 花粉が鼻腔内の粘膜に付着
- 身体がアレルゲンとみなし、対抗するための抗体を作る
- 抗体がマスト細胞という細胞に結合
- 再びアレルゲンが侵入すると、マスト細胞からアレルギー誘発物質(ヒスタミン、ロイコトリエン、トロンボキサン、PAF)が放出される
- これらの物質が症状を引き起こす
ヒスタミン:鼻の粘膜の知覚神経を刺激し、くしゃみや鼻水を引き起こす
ロイコトリエン、トロンボキサン、PAF:鼻甲介の血管を拡張させ、炎症を起こして腫れさせることで、鼻づまりを引き起こす
本来、花粉自体に毒性はありませんが、身体が花粉を「敵」とみなしてしまう免疫機能の働きによって、つらい症状が引き起こされているのです。
従来の花粉症治療薬との違い

医療機関で従来から処方されてきた代表的な花粉症治療薬は、抗ヒスタミン薬と抗ロイコトリエン薬です。
抗ヒスタミン薬
- アレグラ(一般名:フェキソフェナジン塩酸塩)
- アレロック(一般名:オロパタジン塩酸塩)
- クラリチン(一般名:ロラタジン)
- ビラノア
- デザレックス
- ザイザル
抗ロイコトリエン薬
- キプレス(一般名:モンテルカストNa)
- オノン(一般名:プランルカスト水和物)
従来の治療薬の作用機序
アレルギー誘発物質であるヒスタミンやロイコトリエンは、体内で受容体に結合することでアレルギー反応を引き起こします。これを鍵(アレルギー誘発物質)と鍵穴(受容体)の関係に例えると、抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬は、薬剤自体が「鍵」の役割を果たし、受容体に先回りして結合することで、アレルギー誘発物質が結合できなくします。
花粉症の薬は「症状が出る前に早めに飲むことが大事」と言われる理由はここにあります。受容体にアレルゲンが結合してからでは、薬が入り込む隙間がないため、効き始めるのに時間がかかってしまうのです。
舌下免疫療法とは

舌下免疫療法は、従来の薬剤とは全く異なるアプローチで花粉症の治療を目指します。
舌下免疫療法の特徴
舌下免疫療法は、アレルゲン免疫療法や減感作療法と呼ばれる治療法に属します。この治療法自体は、以前から注射による「皮下免疫療法」として行われてきました。
治療の仕組み: アレルゲンをあえて体内に取り込むことで、身体を徐々にアレルゲンに慣らしていき、アレルギー症状の緩和や根本的な体質改善を目指します。
従来の薬との違い:
- 舌下免疫療法:アレルゲンが体内に侵入してもアレルギー誘発物質が出ないような身体の状態をつくる
保険適用と使用薬剤

舌下免疫療法は、2014年にスギ花粉で保険適用となり、翌年にはダニアレルギーでも保険適用となりました。現在では多くのクリニックで治療が行われています。
主な薬剤:
- シダキュア(スギ花粉)
- シダトレン(スギ花粉)
- ミティキュア(ダニ)
- アシテア(ダニ)
期待できる効果
治療効果のデータ
令和7年度の調査では、舌下免疫療法を受けている患者は、花粉飛散ピーク時に受診した未治療の患者と比較して、自覚症状が有意に抑制されていることが確認されています。花粉飛散数が増加しても、舌下免疫療法を受けている患者の症状変動幅は少ない傾向にあります。
花粉飛散ピーク時の症状を、日本アレルギー性鼻炎標準QOL調査票を用いて評価したところ、以下の結果が得られました。
症状スコアの比較:
- 舌下免疫療法を受けている患者:5.70
- 治療を受けていない患者:13.40
症状スコアは、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどの症状の強さを数値化したもので、スコアが低いほど症状が軽いことを示します。つまり、舌下免疫療法により症状が半分以下に軽減されていることが明らかになりました。
また、花粉飛散数が多い年でも、舌下免疫療法を受けている患者の症状悪化は軽度で済む傾向にあり、治療の安定した効果が確認されています。
効果が出るまでの期間
- 効果が出始める時期:早ければ8〜12週間
- 推奨される治療期間:3〜5年(最低2年)
- 長く続けるほど、症状が軽快する傾向がある
副作用がなければ、短期間での効果判断はせず、まずは3年間ほど試してみて評価するのが良いでしょう。
治療期間中の花粉症対策
十分な効果が感じられるまでの期間、花粉症シーズンは抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬と併用して治療を続けることができます。
治療開始時期と副作用
治療を始められる時期
花粉が飛散している時期(1月〜4月)には治療を開始できません。
理由:
- 治療効果の発現に最低8〜12週間かかる
- 花粉飛散シーズンはアレルギー反応が起きやすく、副作用が出やすい
推奨される治療開始時期:
スギ花粉の飛散が落ち着く5~7月に治療を開始するのをオススメします。そうすれば、次のスギ花粉飛散シーズンには症状緩和に期待ができます。花粉症シーズンに治療を開始することができないため、遅くとも12月までには開始しましょう。
副作用について
舌下免疫療法の薬剤は、化学的に合成した薬ではなく、実際の花粉から抽出して作られています。そのため、副作用も花粉によるアレルギー反応の延長上にあります。
主な副作用:
- 口腔内のかゆみや不快感
- のどの刺激感・不快感
- 耳のかゆみ
重大な副作用: 蕁麻疹や呼吸困難を伴うアナフィラキシーショックという強いアレルギー反応が起こる可能性がありますが、極めて稀であることが報告されています。当院でもこれまでにそのような症例はありません。
当院の安全対策
患者の安全を確保するため、初めて舌下免疫療法を開始される方には、院内で薬を処方後、その場で薬剤を服用いただき、30分ほど副反応の有無を確認させていただいております。
治療費について
舌下免疫療法は保険適用の治療です。
費用の目安(3割負担の場合)

費用に幅がある理由:
- 処方される薬剤の種類
- 院内処方か調剤薬局での処方か
一般的には、院内処方の方が患者の自己負担は少なくなる傾向にあります。
長期的な費用
3〜5年間継続する場合、総額では以下のようになります。
- 3年間:約72,000〜126,000円
- 5年間:約120,000〜210,000円
根本的な体質改善を目指す治療として考えると、妥当な費用と言えるのではないでしょうか。
通院の課題
舌下免疫療法は、3〜5年という長期間にわたって通院を続ける必要があり、多くの患者が「通院負担」という壁にぶつかります。
- 3〜5年という長期間の通院が必要
- 薬剤は基本的に1ヶ月分の処方で、通院頻度が高い
- クリニックが混雑するシーズンでも通院が必要
- 服薬を中断すると振り出しに戻る
仕事が忙しくて通院ができなくなったケースや、感染症流行期に通院を避けて治療を中断するケースが増えています。そのため、舌下免疫療法の治療についてはオンライン診療がおすすめです。
オンライン診療のメリット
Dクリニック東京ウェルネスでは、舌下免疫療法とオンライン診療を組み合わせた治療を提供しています。
オンライン診療のメリット:
- 通院負担の大幅な軽減
- 待ち時間なしの完全予約制
- 通院にかかる時間と交通費の削減
- 処方薬は自宅に配送
- 飛散期に外出しなくても診察が可能
初診は対面診療が必要
以下の理由から、初診は対面診療が必要です。
- アレルギー検査の実施(確定診断のため)
- 初回服薬時の副作用確認(院内で30分観察)
初診後、医師が適切と判断した場合、再診以降はオンライン診療をご利用いただけます。
まとめ
舌下免疫療法は、花粉症の根本的な体質改善を目指す治療法です。従来の抗ヒスタミン薬が症状を抑える対症療法であるのに対し、舌下免疫療法はアレルゲンに対する身体の反応そのものを変えていきます。
舌下免疫療法のポイント:
- 約90%の患者に効果が期待できる
- 3〜5年間の継続治療が必要
- 花粉飛散期(1月〜5月)には治療開始できない
- 保険適用で月2,000〜3,500円程度(3割負担)
- 5歳から治療可能
治療を成功させるコツ:
- 長期間継続することが重要
- オンライン診療を活用して通院負担を軽減
- 効果が出るまで抗ヒスタミン薬との併用も可能
Dクリニック東京ウェルネスでは、舌下免疫療法の診療に加え、オンライン診療にも対応しています。毎年花粉症に悩まされている方、根本的な治療を検討されている方は、お気軽にご相談ください。
記事監修者

院長
渡邊 康夫(わたなべ やすお)
Yasuo Watanabe
【略歴】
日本大学付属練馬光が丘病院
日本大学附属板橋病院
日本大学医学部医学科 循環器学博士号取得
川口市立医療センター
東京臨海病院
敬愛病院・敬愛病院附属クリニック副院長
Dクリニック東京ウェルネス 院長
【認定資格】
一般社団法人日本循環器学会 循環器専門医
一般社団法人日本内科学会 総合内科専門医
日本医師会認定産業医臨床研修指導医
厚生労働省指定オンライン診療研修修了
参考文献
- 東京都健康安全研究センター「令和7年度花粉症対策検討委員会」
- 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会「鼻アレルギー診療ガイドライン」
- 日本アレルギー学会「アレルゲン免疫療法の手引き」
- 東京都福祉保健局「花粉症患者実態調査(平成28年度)」
- 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」