[医療従事者向け]オンライン診療ガイドライン改定案の5つのポイント
現在、厚生労働省を中心として、2018年3月に発表された通称オンライン診療ガイドラインの改定に向けての検討会が実施されています。
この検討会は、3月のオンライン診療ガイドライン発表時に、およそ1年毎に定期的に見直されることが厚労省より明言されたことによるものです。
現行のオンライン診療ガイドラインについての解説はこちら
▼[医療従事者向け]オンライン診療ガイドラインの5つのポイント
情報通信技術の発展はスピードが非常に早く、さらに、実際にオンライン診療をスタートする中での各種のエビデンスの蓄積に伴ってルールを変えていくべき、という視点から定期的なガイドラインの見直しの必要性が言及されました。
今回は、そのガイドライン改定のための検討会について、現在論点となっている5つのポイントをご紹介します。尚、現在検討されている内容は、2019年5月ごろに正式に発表される予定となっています。
オンライン受診勧奨と遠隔健康医療相談の違いの明示
まず、1つ目のポイントとして、オンライン診療ガイドラインで定義された「オンライン診療」「オンライン受診勧奨」「遠隔健康医療相談」について、受診勧奨と医療相談の違いをより明確にすべきという議論がなされています。
再検討の背景としては、これまで20年、30年として行われてきた受診勧奨・医療相談の実態が今回のガイドラインのギャップがあることです。
医師は、患者とのコミュニケーションの中で、診断や受診勧奨や相談などを複合的に行っていることが一般的なため、現在のガイドラインの定義のみでは問題が出てきているようです。
具体的には、下記の3点となります。
①受診不要や考えられる疾患名を列挙するなどの助言は「受診勧奨」として行われてきた
②一般用医薬品等の使用については、そもそも医師以外の方が助言している
③医師が行うことができる遠隔医療相談は、医師以外のそれとは異なるのではないか
そんな中、検討会の事務局(厚生労働省 医政局 医事課)からは下記のような提案がなされています。
まず、受診不要の指示または助言については、「オンライン受診勧奨」でも実施可とする。罹患可能性のある疾患名の列挙については、「オンライン受診勧奨」において実施可とする。また、一般用医薬品等の使用に関する助言は、「オンライン受診勧奨」「遠隔健康医療相談(医師)」「遠隔健康医療相談(医師以外)」の全てで対応可とする。
最後に、患者個人の心身の状態に応じた医学的助言等については、「遠隔健康医療相談(医師)」においても新たに実施可とする、という内容です(下表参照)。
この点については、議事録によると、検討会参加者からも方向性としては賛同されているため、概ねこのような内容で改定されるのではないかと思われます。
初診対面診療の原則の例外
現在のオンライン診療ガイドラインでは、オンライン診療は対面診療と比較して患者から得られる情報が少なくなることから、「初診は原則として対面」と定められています。
ただし、オンライン診察でも対面診察と同等の患者情報が得られる場合については、例外的に初診からオンライン診療が認められることになっています。現在、健康保険組合など保険者が実施する禁煙外来のみがこの対象となっておりますが、これ以外に対象とする疾患についての検討がなされています。
- 最低限遵守する事項(指針の抜粋)
- ⅰ 直接の対面診察と同等でないにしても、これに代替し得る程度の患者の心身の状態に関する有用な情報を、オンライン診療により得ること。
ⅱ 初診は、原則として直接の対面による診療を行うこと。
ⅲ 急病急変患者については、原則として直接の対面による診療を行うこと。なお、急病急変患者であっても、直接の対面による診療を行った後、患者の容態が安定した段階に至った際は、オンライン診療の適用を検討してもよい。(中略)
事務局から提示された初診を例外とする案は、疾患は下記の1)から5)までの5つとなります。これらは、厚生労働省に対して提案や要望があったものとして挙げられています。6)については、検討会で委員から出された案です。
1)男性型脱毛症(AGA)
2)勃起不全症(ED)
3)季節性アレルギー性鼻炎
4)性感染症
5)緊急避妊(薬)
6)精神科領域
以下に、それぞれについて検討会で出された意見について見ていきます。
1)男性型脱毛症(AGA) →✕否定的
・患部を診て判断することがとても大事であるため、例外疾患としては否定的
2)勃起不全症(ED) →✕否定的
・心疾患があるか確認する必要あり(死亡例も出ている)
3)季節性アレルギー性鼻炎(花粉症) →✕否定的
・特にコメントはなし(対面診察と同等の情報が得られないため)
4)性感染症 →✕否定的
・特にコメントはなし(対面診察と同等の情報が得られないため)
5)緊急避妊(薬) →専門家の意見を聞き議論を進める
・望まない妊娠や性的被害においてオンライン診療が有効に働くのではないか
・ただし、アフターピルをオンライン診療で処方するような専門医療機関は望ましくない
6)精神科領域 →✕否定的
・患者との信頼関係が特に重要なため、対面診療を中心として診察をすべき
・医師に心を開いて全部話してもらわないと的確な診断ができない
現在のところ、今回のガイドライン改定では緊急避妊薬以外の疾患は、例外として認められる可能性はかなり低そうです。緊急避妊薬についても、今後産婦人科医など専門家の意見を確認しながら、検討会で議論が進められることになります。
追加症状等への対応
現行のオンライン診療ガイドラインでは「新たな疾患に対して医薬品の処方を行う場合は、直接の対面診療に基づきなされること」という規定があります。
そのため、診療計画の作成時に予測され得る症状であるにもかかわらず、オンライン診療が継続できない事例が出てきており、現在その規定の緩和が検討されています。
検討会では事務局から、先述の規定に「ただし、(在宅診療等、速やかな受診が困難である患者に対して、)予測されていた症状の変化に医薬品を処方することは、その旨を対象疾患名とともにあらかじめ診療計画に記載している場合に限り、認められる」という内容を追記する提案がなされました。
オンライン診療の提供に関する事項(5)薬剤処方・管理こちらについては、参加者から特段の異論はなかったようですので、このまま5月の改定に盛り込まれることになると考えられます。また、「予測されていた症状の変化」についての具体的な例はガイドライン発表後に出されるQ&Aにて説明されるということです。
同一医師による診療原則の例外
続いて、同一医師による診療原則の例外について見ていきます。
現行のオンライン診療ガイドラインにおいては、基本的に対面診療を行った医師がオンライン診療を実施することとしています。
しかし、“通常対面診療においても毎回異なる医師が担当することが一般的な疾患”や、“主に健康な人を対象としたリスクの低い診療”については、例外として異なる医師がオンライン診療を実施することを可能としてはどうか、という提案がなされています。
背景としては、チーム医療や複数主治医制が進む中で、個々の医師の負担軽減等の観点から、同一医師以外によるオンライン診療も可能なように検討すべきという意見があることによります。
尚、ここでいう、“主に健康な人を対象としたリスクの低い診療”というのは、自由診療で行われているような美容、アンチエインジングなどの領域のことを指すということです。
医師の研修の必修化
最後に、医師の研修の必修化についてです。検討会では、現在の医学教育の課程の中ではオンライン診療については取り扱われていないため、通信技術などについて十分な知識を持っていないことが想定されることから、医師向けの研修の必要性が提案されました。
その他オンライン診療に関する事項(1)医師教育/患者教育事務局からの提案では、現行のガイドラインに対して“厚生労働省が定める研修の受講の必須化”、“研修修了証のウェブサイトへの掲載”などを追記する改訂案が提示されました。
この点に関しても、検討会参加者からの反対はなかったため、大筋はこの内容で変更されるものと思われますが、意見として追加検討すべきとされた下記については、追加で検討されることになそうです。
・研修にはeラーニングを活用すべき
・受講修了者に対しても定期的な資格更新ないしは情報提供を行う
2019年5月改定案のまとめ
ここまで2019年5月に改定が予定されている、オンライン診療ガイドラインについてみてきました。今回の改定案は、2018年3月に出された現行のガイドラインの内容を、①補足説明するもの、②規制を強化するもの、③規制を緩和するもの、の大きく3つに分かれます。
今回ポイントを説明した5つを分類すると、①としては「オンライン受診勧奨と遠隔健康医療相談の違いの明示」および「初診対面診療の原則の例外」、②としては「医師の研修の必修化」、③としては、「追加症状等への対応」および「同一医師による診療原則の例外」となります。
それ以外にも検討されている事項を下表にまとめておりますので、参考にしていただければと思います。
Dクリニック東京ウェルネス 事務長
酒井 真彦 (さかい まさひこ)
【略 歴】
早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、
早稲田大学ビジネススクール(MBA)修了
大手製薬会社、リクルートライフスタイル等で
医療・ヘルスケア領域の新規事業企画を担当した後、
医療法人社団ウェルエイジングにて
Dクリニック東京ウェルネスの開院に参画