オンライン診療(遠隔診療)の薬剤の受け取りについて
※この記事は2020.5.26に内容を更新いたしました
医療機関でオンライン診療を受けたあとの薬剤の受け取り方法にはどのようなものがあるのでしょうか。
この記事では、まず、お薬を処方してもらい薬を受け取るための2つの方法、「院外処方」と「院内処方」について説明した上で、オンライン診療における流れと注意点についてご説明したいと思います。
オンライン診療とは?
オンライン診療とは、スマートフォンやPCのビデオ通話機能を活用して、医療機関に対面で診察を受けに行かなくても医師の診察が受けられる受診方法です。
旧来は、離島や僻地を対象としていたこともあり「遠隔診療」と呼ばれていましたが、近年のICT化により、遠隔地でなくともITデバイスを活用して診察を行うケースも含めて、「オンライン診療」と呼ばれるようになりました。
このオンライン診療ですが、2018年3月に厚生労働省から医療機関向けに医療の質を維持するためのガイドラインが出されたこと、また、2020年の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行に伴った“初診対面の原則”の時限的な規制緩和により、徐々に浸透しはじめています。
厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針(平成30年3月)(令和元年7月一部改訂)」
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」
医療機関でお薬を受け取る2つの方法
オンライン診療後のお薬の受け取り方法について説明する前に、まず、対面診察の際にも共通する「院外処方」と「院内処方」という2つの受け取り方法について確認していきましょう。
- 院外処方
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院外処方とは、病院やクリニック受診した際に医師に処方箋を発行してもらい、調剤薬局にて薬剤を処方してもらう方法です。
患者は、薬剤を受け取る調剤薬局は自身で選択できます。近年では、この院外処方が医療機関における薬剤処方の主流になっています。院外処方が主流になってきた理由は国の政策によるものです。
「医師が患者に処方せんを交付し、薬局の薬剤師がその処方せんに基づき調剤を行い、医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で業務を分担し国民医療の質的向上を図る」とされ、院外処方が奨励されました。
これは「医薬分業」と呼ばれており、薬剤師が医師の処方内容に対してチェック機能を果たすことが主な目的です。
薬剤師は、必要以上にお薬が処方されていないか、飲み併せが悪い薬剤が処方されていないか、体質に合わない薬剤が処方されていないかなどの安全面も確認します。
- 院内処方
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一方、院内処方とは、診察を受けた病院やクリニックにおいて薬剤を受け取ることです。患者は、会計の際にその場でお薬も受け取ります。そのため、基本的にはその医療機関が採用している薬剤しか処方してもらえません。
30年ほど前までは、ごく当たり前のように見られていた受け取り方法ですが、医薬分業の流れにより、最近は院内処方を行うクリニックは少なくなってきました。 眼科や皮膚科など領域が特化されているクリニックや大学病院や地域の大病院などでは、現在も院内処方を行っているケースがあるようです。
受け取り方法別のメリットとデメリット
それでは、院外処方と院内処方、それぞれの受け取り方法において、そのメリットとデメリットを見ていきましょう。
まず、院外処方のメリットは、先発品・ジェネリック含めて幅広い薬剤に対応していることとです。
クリニックや病院での処方の場合、そのクリニックが専門としている疾患のお薬はありますが、そうでない領域のお薬については在庫を持っていないことが一般的です。
また、かかりつけ薬局の場合、複数の医療機関からの処方の一元管理をしてくれます。具体的には、他院で飲んでいる薬と飲み合わせの悪いお薬がある場合などは、確認して医療機関と調整をしてもらえます。
一方で、デメリットとしては、調剤薬局までの移動時間や経済的なコストがあります。院外処方の場合、クリニックや病院で支払う自己負担に加えて調剤薬局で支払う自己負担が発生し、院内処方と比べて、トータルの医療費が若干高くなります。
■院外処方と院内処方メリット・デメリット
院外処方
- メリット
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・先発品・ジェネリック含めて、幅広い薬剤が処方できる
・薬剤の一元管理ができる(かかりつけ薬局の場合)
- デメリット
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・診察と調剤場所が異なるため、移動時間を要する
・医療費の自己負担金額がトータルで高くなる
・受取時の薬剤や数量の変更がしにくい
院内処方
- メリット
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・診療から薬剤の受け取りまで院内で完結する
・医療費の自己負担がトータルで安くなる
・薬剤を受け取る際に、処方期間の変更や薬の追加変更がしやすい
- デメリット
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・患者が新薬などを希望した場合、院内に用意がないことがある
・お薬手帳の提示がないと薬剤の一元管理が難しい
・薬剤の準備に時間が必要なため、院内での待ち時間は長くなる
続いて、院内処方のメリットは、診察から薬剤の受け取りまで院内で完結するため、移動の手間が省けるということがあります。
また、前述のとおり、医療費の自己負担も一般的には院内処方のほうが安くなります。
デメリットとしては、院外処方のメリットの真逆になります。院内でストックしている薬剤の種類には限りがあるため、内科などでついでに湿布などを処方してもらう場合などは対応できません。
また、他院で処方されているお薬がある場合、お薬手帳を細かに確認する必要があり、その飲み合わせの確認に手間がかかります。また、院内での拘束時間、という意味では院外処方よりも多少長くなることが考えられます。
オンライン診療における薬剤受け取り
前項で解説した院外処方・院内処方のメリットとデメリットは対面診察を前提としたものです。オンライン診療のケースでは、院内処方において利便性が高まると考えられます。
オンライン診療で院内処方の場合、診察の後、薬剤が自宅に届きます。つまり、診察から処方まで“院内で完結”ではなく、“スマートフォンやPCで完結”することができます。
また、それに伴って、デメリットとして挙げている“院内での薬剤受け取りの待ち時間”は事実上なくなることになります。
一方で、院外処方の場合は、オンラインでの薬剤の受け取り(オンライン服薬指導)は限定的にしか認められておらす、現在のところオンライン診療に伴い利便性が高まるわけではありません。
(※2020年5月時点では新型コロナウイルスの流行により時限的に認められています。)
これらのことから、オンライン診療との相性は、現在のところ院内処方に軍配が上がりそうです。オンライン受診しているクリニックが院内処方も可能である場合は、希望してみると良いでしょう。
今後は服薬指導もオンラインに?
現在、院外処方の際にオンラインで薬剤が受け取れないのは、調剤薬局における服薬指導にも「原則として対面」という規制があるためです。
また、患者が1つの処方箋で何度も薬をもらえる状況になることを避けるため、処方箋は原本である必要があります。このことも、オンライン服薬指導の浸透を阻む一つの要因となっています。
しかし、オンライン診療を受けて、処方箋の原本が自宅に届き、その処方箋を持って調剤薬局に行くというのは手間に感じる方も多いでしょう。
そのため、オンライン診療のルールが整備された前後から、このオンライン服薬指導についても、規制の緩和が検討されています。
ここで、院外処方を採用しているクリニックでオンライン診療を受けた場合の、薬剤の受け取り方の流れを確認してみましょう。
[院外処方における薬剤受け取りの流れ]
①オンライン診療を受け、診療方針、処方薬を決定
②病院やクリニックから処方箋が指定の住所に届く
③患者が調剤薬局に処方箋原本を持参
④患者が調剤薬局で服薬指導を受け、薬剤を受け取る
では、規制が緩和されるとどのような変化が期待されるのでしょうか。
まず、②と③に関しては、医師法22条および医師法施行規則21条では医師は患者に対して処方箋の「原本」を提供しなければならないと定められています。
新型コロナウイルス(COVID-19)の流行でも問題となっていましたが、日本の“紙文化”や“ハンコ文化”が、医療においても利便性や効率性の向上を拒んでいます。
こちらについては、現在、電子処方箋を活用した実証実験が行われています。クリニック・病院と調剤各局の間で、電子処方箋のやり取りが可能になれば、調剤薬局に原本を持参する必要はなくなるでしょう。
・医師法第22条
「医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当っている者に対して処方せんを交付しなければならない。ただし、患者又は現にその看護に当っている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合及び次の各号の一に該当する場合においては、この限りでない。」
・医師法施行規則21条
「医師は、患者に交付する処方せんに、患者の氏名、年齢、薬名、分量、用法、用量、発行の年月日、使用期間及び病院若しくは診療所の名称及び所在地又は医師の住所を記載し、記名押印又は署名しなければならない。」
続いて、④の服薬指導に関しては、薬剤師法25条の2において、調剤したお薬を薬剤師が渡す際に薬剤に関する情報提供と服薬指導を対面で行うことが義務づけられています。
つまり、処方箋の原本を調剤薬局に持参し、その場で薬剤師から用法や用量の説明、副作用や飲むときの注意点などの説明を受けなければなりません。これを「服薬指導」と呼びます。
・薬剤師法25条の2
「薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。」
今後の規制緩和で期待されていることは、処方箋の電子化とともに、調剤薬局と患者の間でオンライン上での服薬指導が認められることです。
実現すれば、調剤薬局からお薬を自宅へ配送することが出来るため、院外処方でもすべてオンラインで完結します。
このように、オンライン服薬指導の規制緩和が進めば、オンライン診療の利便性は今以上に高まることが期待されます。
つまり、環境としては、オンライン診療の浸透がこれまで以上に進んでいく土台ができる、と考えて良いでしょう。
しかし、一方で、医療機関側としては、規制が緩和された場合でも、処方箋の電子化のためのシステム環境の構築のための設備投資、業務オペレーションの再構築、など様々な課題が残っています。
現在、オンライン診療が解禁された状況においても、実際にオンライン診療を行わないクリニックが多いのも、それが理由です。
従って、オンライン服薬指導の規制緩和に加えて、クリニックや調剤薬局など、医療機関側の経営努力があってはじめて、患者側の医療アクセスは改善することになると考えられます。
薬発第94号 5 院内処方について
厚生労働省「診療報酬(調剤技術料)院内と院外の評価の違い」P2
厚生労働省「平成30年度診療報酬改定の概要」調剤 薬局における対人業務の評価の充実④ P59
東京都薬剤師会「薬剤師に必要な職業倫理と薬剤師法の概要について」
Dクリニック東京ウェルネス 事務長
酒井 真彦 (さかい まさひこ)
【略 歴】
早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、
早稲田大学ビジネススクール(MBA)修了
大手製薬会社、リクルートライフスタイル等で
医療・ヘルスケア領域の新規事業企画を担当した後、
医療法人社団ウェルエイジングにて
Dクリニック東京ウェルネスの開院に参画