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高血圧 学び | 管理栄養士監修

高血圧と食事・栄養素の関係

目次
生活習慣と高血圧
高血圧予防に必要な生活習慣の修正項目
高血圧と栄養素の関係

生活習慣と高血圧

高血圧は、脂質異常症や糖尿病、肥満とともに生活習慣病と呼ばれています。その原因には生活習慣、特に食事が強く関係しています。
高血圧はそのまま放置すると、心疾患や脳梗塞などの心血管疾患へと進展してしまいます。心血管疾患は、高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満、喫煙などが因子となりますが、中でも高血圧は最大の危険因子です。心血管疾患の予防のためにも、食事を見直して、血圧のコントロールをすることはとても大切です。

高血圧予防に必要な生活習慣の修正項目

高血圧や心血管疾患の予防のために、日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2014」の中には、生活習慣の改変項目がまとめられています(表)。具体的には、食塩を制限すること、野菜・果物・魚を積極的に食べること、コレステロールや飽和脂肪酸をひかえること、減量、運動、節酒、禁煙を基本としています。

※1 重篤な腎障害を伴う患者では高K血症をきたすリスクがあるので、野菜・果物の積極的摂取は推奨しない。
糖分の多い果物の過剰な摂取は、肥満者や糖尿病などのカロリー制限が必要な患者では勧められない。
「高血圧治療ガイドライン2014」より

食事に含まれている栄養素や量、そして食事のバランスは、血圧のコントロールに大きく影響します。では、血圧は栄養素とどう関係しているのか、続いて説明します。

高血圧と栄養素の関係

下の図は、高血圧に関係する栄養素などをまとめたものです。“+”は高血圧を引き起こすもの、反対に“-”は高血圧を抑える作用があるものです。

「日本人の食事摂取基準2020年度版」より

1. ナトリウム(食塩)

日本人の食塩摂取量は徐々に低下しているものの、一日当たりの摂取量は平均9.9g(男性10.8g、女性9.1g(平成29年国民健康・栄養調査))で、世界的にみると多い状況です。なお、食塩とは主成分が塩化ナトリウム(NaCl)で、食品の栄養表示にはナトリウム量(Na量)として記載されていることもあります。ナトリウム量の表示の場合は、2.45倍することで食塩量に換算できます(ナトリウム量×2.54=食塩量)。

ナトリウム(食塩)を多くとることは、血圧上昇と大きく関係があります。食塩摂取量の少ない集団(エスキモー)では高血圧の発症は低いものの、食塩摂取量の多い集団(東北地方の住民)では高血圧が高頻度で発生することが、1960年にアメリカのダール博士より発表されています。

ダールによる食塩摂取量と高血圧症発生頻度の関係(1960年)

日本人の食塩摂取量の現状は、「高血圧治療ガイドライン2014」で推奨されている食塩6g未満よりも、実際には4gほど多くとっています。世界的に、健康食と認められている和食。和食の基本は、一汁三菜に香の物(漬物)のスタイルです。栄養のバランス的にはすぐれた食品の組み合わせですが、食塩量の点では注意が必要です。高血圧の方は、汁物、漬物を控える(食べる場合も1/2、1/3のように量を減らす)などの工夫が必要です。

2. エネルギー

エネルギー源となる栄養素は、炭水化物、脂質、タンパク質です。これらの摂取総量が多い場合、エネルギーの過剰摂取となり、肥満となります。肥満者は非肥満者と比べて高血圧のリスクが2倍になることや、食事制限(エネルギー制限)をして減量をすれば、血圧の低下がみられることが報告されています。

肥満度はBMI(Body Mass Index)で判定されます。BMI=体重(kg)/身長(m)2
「高血圧治療ガイドライン2014」では、高血圧患者のBMIは25未満を目指すべきとされています。目標とすべき体重(BMI25未満)は、170cmの人であれば72kg未満、160cmの人であれば64kg未満、150cmの人であれば56kg未満です。約4kgの減量で、収縮期、拡張期血圧ともに低下作用が確認されているので、長期計画(3ヵ月から6か月)で無理のない減量を計画しましょう。
収縮期、拡張期血圧の詳細はこちらをご覧ください。
高血圧の診断と治療法

体脂肪1 kgは、エネルギー量に換算すると7,000kcalに相当します。
毎月1kg減量する場合、1日で消費しなければならないエネルギー量は233 kcal(7,000kcal÷30日=233kcal)になります。233kcalを食事量(間食含む)で減らすか、または運動量を増やすかになりますが、食事と運動の両方を生活に取り入れることが、減量成功の秘訣です。

表 身体活動で消費するエネルギー量(単位kcal)
表 菓子類のエネルギー量
 

3. アルコール

アルコールは、飲酒直後には血圧の低下がみられることもありますが、長期飲酒を続けると血圧は上昇します。飲酒習慣のある人が、飲酒量を約80%少なくすると、1~2週間で血圧の低下がみられることも報告されています。
「高血圧治療ガイドライン2014」では、高血圧者の飲酒はエタノール量で男性20~30ml/日以下、女性で10~20ml/日以下にすべきと推奨されています。エタノール20~30mlはおおよそ日本酒1合(約180 ml)、ビール中瓶1本(500ml)、焼酎半合弱(約90ml)、ワイン2杯弱(約200ml)に相当します。

4. カリウム(K)

カリウムは野菜、果物に多く含まれる栄養素です。カリウムには、尿からナトリウムを排泄する働きがあり、血圧を下げる作用につながります。カリウムは、仮に摂りすぎたとしても尿中に排泄されるので、普段の食事で過剰摂取になることはありません。ただし、腎臓の機能が低下している人は、尿への排泄が滞り高カリウム血症を起こす場合もありますので、腎疾患の方は、医師や管理栄養士に指導を受けるようにしましょう。

5. DASH食と血圧低下作用

「DASH食」とは、アメリカで開発された、血圧を上げないための食事(Dietary Approaches to Stop Hypertension)のことです。
DASH食は、低脂肪乳製品,野菜,果物,穀物食を中心とした食品構成で、コレステロールや飽和脂肪酸が低く,食物繊維やミネラル類[カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)など]、タンパク質が豊富に含まれています。。血圧を下げる働きをする食品を複合的にとることで、相乗的な効果をあげる食事となっています。さらにDASH食は、減塩と組み合わせることで相乗的に血圧を低下させる作用をもちます。

アメリカで行われた8週間に及ぶ調査では、普通の食事をした人と比較すると、DASH食の人は収縮期血圧が11mmHg、拡張期血圧が5mmHg下がったことが報告されています。
血圧低下に効果的なDASH食ですが、アメリカ人の食事を想定したものですので、残念ながら、日本の食事(メニューや食習慣)にそのまま当てはめることができません。日本型DASH食の開発について、現在検討がすすめられています。

この記事の監修者

神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科准教授
倉貫 早智 (くらぬき さち)
【略 歴】
静岡県立大学大学院博士課程修了。管理栄養士。博士(食品栄養科学)
神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科 助教、講師を経て2014年より現職。

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