高血圧の治療と降圧薬の種類
高血圧の推定患者数は4,300万人 *1)とされています。
その中でも、治療を受けている総患者数は1,010万人にとどまるとされ、多くの人が治療を受けていないことが大きな問題となっています。
ここでは高血圧とその治療と降圧薬の種類について、ぜひ知っておいてほしいポイントを解説します。
高血圧治療の効果と目標血圧について
1. 高血圧治療の効果
高血圧は、治療をしないと、重い病気にかかるリスクが高まる疾患です。
高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれ、自覚症状もなく気づくことが遅れてしまうことが多い病気の1つです。
そのため、健康診断等で高血圧の診断を受けた場合には、治療をしっかりと受ける必要があります。
また、高血圧は、きちんと治療を行うことで改善に向けた効果が明らかに出る疾患でもあります。定期的な通院や服薬を面倒だと思う方も多いかもしれませんが、治療をすることで、治療を受けないよりもはるかに良い結果を生みます。
それでは、高血圧の治療にはどのような方法がとられているのか見ていきましょう。
食事療法や運動療法を用いた生活習慣の改善を行うことが、高血圧の治療の基礎としてすすめられています。しかし、生活習慣の改善のみで目標の血圧まで改善されることは少ないため、血圧を下げる効果のある降圧薬の服用を行います。
降圧薬の服用により、心疾患や脳卒中などの発症が予防できたという研究結果もあります。
収縮時血圧が10mmHg、拡張期血圧が5mmHg下がったことにより、血管病リスクは脳卒中で約 40%(33%-48%)、冠動脈疾患で約 20%(17%-27%)減少することが明らかになっています。
参考までに、成人の血圧値の分類を以下に表してみます。
生活習慣改善は、減塩、野菜や果物の摂取、コレステロール制限、減量、運動、アルコール制限、禁煙と聞くと難しく面倒に感じると思いますが、たとえば、食塩は血圧の上昇のみならず、心臓や血管にも悪影響を及ぼし、動脈硬化などを引き起こすことがあります。そのため、健康に生活するためには食塩を控えるに越したことはありません。
制限の効果には個人差があるものの、食塩摂取量1gあたり上の血圧は1mmHg※くらい、下の血圧は0.5mmHgくらいの降圧が期待できます。
仮に、血圧が「150/100 mmHg」の方が1日食塩摂取量を約11gから約6gに減塩したとします。そうしますと、血圧が「145/97.5 mmHg」と降下される可能性があるのです。
※mmHgとは、水銀柱ミリメートルと呼ばれる圧力の単位です。
食塩摂取量は減少傾向ではあるものの、それでも1日平均約10g摂取しているため、高血圧の場合は6g未満が望ましいとされています。
また、減塩することで高齢者の方に多くいる、上の血圧の値が高い収縮期高血圧の人にも同様に、循環器病にならないようにする効果が出ており、認知症の予防にも効果があると言われています。
2. 高血圧治療による目標血圧
基本の降圧目標値は、140/90mmHg未満です。
糖尿病や腎臓疾患の合併症がある場合は、130/80mmHg未満を目標値とし、75歳以上の後期高齢者の場合は、150/90mmHg未満を目標値とします。
目標値は、病院やクリニックに通院し測定値したときの数字ですので、家庭血圧ではさらに5 mmHg低い値を目標値とします。
医師と相談して治療方針を固めて継続的な改善を
健康診断などで高血圧だと診断されたら、できるだけ早く病院やクリニックで再検査を受けるようにしましょう。高血圧治療が必要だと判断された場合には、医師と治療方針を定め、目標に向けて継続して取り組むことが大事です。
はじめて通院をする際は、どの診療科に行くのがいいのか分からないこともあるかもしれません。一般的には、内科を標榜している病院やクリニックであれば対応可能ですが、循環器内科や腎臓内科、内分泌内科などを受診してもよいでしょう。
初診時から数回に渡り、健康診断のデータを代用することも可能です。保険上、血液生化学検査は10項目以内で尿検査、血球数算定、血液生化学検査、胸部X線写真、心電図などを行い、総合的に高血圧かどうかを判断します。
加えて、生活習慣の確認やBMIの数値、脳や眼底、心臓、腎臓、血管などの病歴がないかと細かく調べていき、合併症の有無もふくめて判断をしていきます。
1. 治療法は医師と相談して最適プランを
高血圧の治療は、食事療法や運動療法を中心に生活習慣の改善を行い、改善が見込めない場合、薬物治療も併用して行います。
その際、医師は高血圧の程度や合併症の有無や生活習慣などを総合的に判断したうえで、患者それぞれに最適な治療プランを考えます。
2. 定期的に通いやすく、話しやすい病院選びが重要
高血圧は、悪化しないように管理しながら新たな合併症を発症しないように予防・管理をしていく病気です。
定期的な通院や食事管理等が必要なため、かかりつけ医は自宅から通いやすく、コミュニケーションを取りやすい病院やクリニック、また、事前予約ができ好きな場所から事前相談・診察を受けることができるオンライン診療を選ぶことも方法の一つです。
生活習慣を継続して改善するためには、通院を行い医師や看護師とコミュニケーションをとっていくことがとても大事です。
そのため、生活改善を途中で諦めず継続するためには、周りのサポートも大事になってきます。また生活改善を努力した結果を確認しながら進めると良いでしょう。
降圧薬による高血圧の治療と降圧薬の種類と副作用
高血圧の患者様の多くは、血圧を下げる薬(降圧薬)による治療を受けることになります。
もちろん並行して生活習慣の改善による高血圧の治療も行いますが、一つの方法に固執してしまうことはストレスにもなってしまうため、ストレスが原因の場合には食事療法と運動療法に固執することなく、降圧薬を服用します。
降圧薬について、グループ分けをしてみましょう。
- カルシウム(Ca)拮抗薬
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降圧効果が確実で安全性も高いため、最も使われている降圧薬です。血管平滑筋細胞内へのカルシウムイオン流入を抑制し、血管拡張作用をもたらします。
・積極的な適応:脳血管障害後、狭心症、左室肥大、糖尿病、高齢者
・副作用:血管拡張による頭痛、反射性の頻脈、下肢浮腫
・主な薬剤:ニフェジピン、アムロジピン、ジルチアゼム、アゼルニジピン、シルニジピン
- アンジオテンシンⅡ(ARB)受容体拮抗薬
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臓器保護作用があり心血管病、糖尿病性腎症にも効果的です。アンジオテンシンⅡのタイプ1受容体に結合し、アンジオテンシンⅡの作用を阻害します。
・積極的な適応:脳血管障害後、心不全、心筋梗塞後、左室肥大、腎障害、糖尿病、高齢者
・副作用:高カリウム血症、血管浮腫
・主な薬剤:ロサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、テルミサルタン、オルメサルタン
- アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
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降圧作用とは独立して臓器保護作用があり、心血管疾患を伴う高血圧に有用性が高いです。ACEを阻害して、アンジオテンシンⅡの産生を抑制します。
・積極的な適応:脳血管障害後、心不全、心筋梗塞後、左室肥大、腎障害、糖尿病、高齢者
・副作用:空咳、高カリウム血症、血管浮腫
・主な薬剤:エナラプリル、トランドラプリル、イミダプリル
- ・選択的アルドステロン受容体拮抗薬(SAB)
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海外では心不全治療薬として使用されています。ミネラロコルチコイド受容体(MR)でアルドステロンの作用を選択的に阻害します。
・積極的な適応:心不全、心筋梗塞後
・副作用:高カリウム血症
・主な薬剤:エプレレノン
- 利尿薬
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むくみや心不全にも有用のため、ほかの薬剤と併用して使用されるようになっています。腎臓からのナトリウム及び水排出を促進し、循環血液量を減少させます。
・積極的な適応:脳血管障害後、心不全、腎不全(ループ利尿薬)、高齢者
・副作用:耐糖能低下、脂質異常症(高脂血症)、高尿酸血症、低カリウム血症
・主な薬剤:ループ利尿薬(フロセミド)、サイアザイド系列利尿薬(ヒドロクロロチアジド クロルタリドン)、カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン)
- β(ベータ)遮断薬
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β1選択性ならば、適応がより広くαβ遮断薬は血管拡張作用を有し、使いやすいです。β1受容体を遮断し、心排出量を低下させます。
・積極的な適応:狭心症、心筋梗塞後、頻脈、心不全
・副作用:不眠、抑うつ、倦怠感、糖脂質代謝の悪化
・主な薬剤:β遮断薬、αβ遮断薬(カルベジロール)
- α1(アルファワン)遮断薬
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前立腺肥大症の治療にも使用されます。血管平滑筋のα1受容体を遮断し、血管抵抗を下げます。
・積極的な適応:脂質異常症(高脂血症)、前立腺肥大
・副作用:起立性低血圧
・主な薬剤:α遮断薬
薬の副作用を気にして治療を敬遠する方もいるでしょう。しかし、降圧薬を使用して治療した方たちと治療しなかった方たちを比べると、降圧薬を使用して治療した方たちのほうが脳卒中や心臓病の発症リスクが軽減される、という結果が明らかになっています。 降圧薬は飲み続けて治療するケースがほとんどですが、薬の量を減らしたい方は、生活習慣も改善しながら医師と相談して減らしていきましょう。
治療費と薬の値段
高血圧の治療に、医療費はどのくらいかかるのでしょうか。健康保険組合連合会の統計データでは、45〜49歳の高血圧症患者の1日あたりの医療費は6,430円です。
※通常は、医療費の3割が自己負担分となりますが、保険証とあわせて医療証を持たれている場合、その種類によって自己負担分の割合が変わる場合があります。
しかし、これは高血圧症だけの治療費であって、もし糖尿病や脂質異常症などを併発する場合は、さらに治療費が加算されることになります。治療費の面からも、ほかの病気を合併しないように生活改善をしていくことが欠かせません。
この金額は高血圧症の治療のために病院やクリニックを受診した際にかかる医療費のため、薬剤の処方にかかる医療費は、別途加算されます。
また、糖尿病や脂質異常症(高脂血症)の合併症がある場合は、さらに医療費が加算され、家計を圧迫していきます。病院やクリニックを受診した際に支払う医療費は、保険点数で定められているため軽減することが難しいです。
しかし、少しでもかかる費用を軽減したい場合には、薬剤を後発品(ジェネリック医薬品)に変更することで、医療費を軽減することが可能になります。ジェネリック医薬品に変更すると、薬の費用負担が約2〜7割に抑えられることもあります。
ジェネリック医薬品とは「新薬(先発医薬品)と同じ有効成分を使っており、品質、効き目、安全性が同等なおくすり」であると定められた薬剤です。ジェネリック医薬品は、厳しい試験に合格し、厚生労働大臣の承認を得て、国の基準と法律に基づいて製造・販売されています。
ただし、ジェネリック医薬品は、成分は先発医薬品と同様でも、添加物などが異なるケースもあるため、薬の効きが弱くなったり副作用が出てきたりすることもあるので、医師や薬剤師と十分に相談しましょう。
さらに、1世帯における年間の医療費負担額の総額が10万円を超える場合、確定申告をすることで控除を受けられるため、活用することをおすすめします。
治療により血圧が下がれば薬はやめられる
高血圧の治療には定期的な通院はもちろんのこと、日々の生活改善及び、決められた服用方法を守り、処方された薬を欠かさず飲むことが必要です。服用は、一生涯続けなければならないものでなく、生活習慣が改善し血圧が正常域で安定できれば、減薬や中止も可能です。
ただし、医師に確認せずに自ら薬をやめることはせず、医師に健康状態を必ず確認してもらい、相談しながら薬の量をコントロールするようにしましょう。
高血圧の治療には定期的な通院はもちろんのこと、日々の生活改善も必要です。
しかし、治療方針を医師と相談しながら、適切な治療を行う必要があると分かってはいても、月に一度の通院の時間が取りづらいと思っている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
また、不安に思ったときにすぐに相談したいと思っている方もいらっしゃるでしょう。そのような時に活用していただきたいのが、オンライン診療です。
オンライン診療では、ご都合の良い日時に予約ができるだけではなく、ご都合の良い場所で診察を受けることが可能になり、通院する煩わしさを感じることはありません。
その中でもおすすめは、スマホで診察が受けられる、オンライン診療サービス「スマホ診」です。
スマホ診では、オンラインでの事前相談や、オンラインでのビデオ診療ができるので活用してみてください。
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