脂質異常症(高脂血症)の改善方法食事による悪玉コレステロール減らし方。
脂質異常症(高脂血症)は、高血圧や糖尿病、喫煙、加齢などと同様に動脈硬化を誘発する危険因子です。
しかし、脂質異常症(高脂血症)は様々な要因が絡み合って発症するため、一概に「発症の原因はこれだ」と限定することはできません。様々な要因とは大抵の場合、偏った栄養バランスの食事や多量のアルコール摂取、運動不足など。つまり脂質異常症(高脂血症)は生活習慣から引き起こされているのです。
従って、治療の基本は生活習慣の見直しです。そのなかでも特に大切なのが、食事の改善と運動です。たとえ薬を服用していても、生活習慣の改善を行わなければ元の木阿弥です。
今回は、脂質異常症(高脂血症)治療のための、生活習慣の改善ポイントについて解説します。
食事による改善
脂質異常症(高脂血症)を改善するには、食事の質と量に気を配り、適正な体重を保つことが大切です。ここでは、食事の材料を選ぶ際や調理の際に気をつけるべき具体的なポイントを説明します。
1. 食材選びのポイントと、調理方法
・肉より魚、大豆製品を多く摂る
主菜は肉料理よりも、なるべく魚料理や大豆製品を使った料理を選ぶようにします。1日1皿以上は青魚(サバ、イワシ、アジなど)や大豆製品(豆腐、納豆)を取るようにしましょう。
青魚に豊富な不飽和脂肪酸のEPAやDHAは「食後の血中中性脂肪が上昇しにくい食品」として特定保健用食品にもなっているほど、高い効果が期待できます。また、大豆に含まれるタンパク質と食物繊維には、コレステロールを下げる作用があり、大豆製品の納豆には、血栓を溶かす作用のあるナットウキナーゼという酵素が含まれています。
・野菜、海藻、キノコを毎食取る
野菜、海藻、キノコ類は毎食1品以上食べるようにしましょう。
野菜はビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富で、抗酸化力が高く、動脈硬化を防ぐ作用があります。特に、ピーマンやニンジンなど色の濃い野菜(緑黄色野菜)は、ビタミンA・C・Eやポリフェノールなどが多く、強力な抗酸化力を持っています。キャベツや大根などの色の薄い野菜(淡色野菜)はビタミンCが豊富です。
海藻ときのこは、どちらも食物繊維が豊富で、コレステロールの吸収を抑えたり、余分な脂を体外に排出したりする作用があります。コンブ、メカブ、ナメコなどのネバネバとしたぬめり成分は、水に溶ける性質がある水溶性食物繊維で、中性脂肪やコレステロールを減らし、血流をよくする働きがあります。
野菜は生野菜のまま食べるよりも、蒸したりゆでたりしたほうが嵩が減り、たくさん食べられるようになります。
緑黄色野菜に豊富なビタミンA・Eは油に溶け出す性質があるので、油を少し使って調理すると栄養の吸収がより良くなります。
・食事で摂る油の「量」に注意し「質」の良いものを選ぶ
油は取りすぎないように注意したうえで、質の悪い油を控え、できるだけ質の良い油を選びましょう。
質の悪い油とは、動物性脂肪(バター、ラード、肉の脂身)やトランス脂肪酸(マーガリン、ショートニングなど)です。質の悪い油を過剰摂取すると、LDL(悪玉)コレステロールが増加し、HDL(善玉)コレステロールが減少するため、動脈硬化のリスクが高まります。
質の良い脂とは、不飽和脂肪酸を多く含むオリーブ油、亜麻仁油、しそ油、えごま油などで、血中の中性脂肪やコレステロール値を調節する働きがあると言われています。
肉は脂身の少ない部位(ヒレ、ももなど)を選ぶか、脂身はなるべく残すようにしましょう。調理の際は、油で揚げるのは避け、グリルで焼く、湯通しして余分な脂を落とす、蒸す、といった、油を過剰に使わない方法を工夫してみましょう。
2. 脂質異常症改善のレシピ一覧
食材選びと調理方法のポイントを踏まえたうえで、食事改善を実践していきましょう。脂質異常症(高脂血症)改善に役立つ手軽でおいしいレシピを3つご紹介します。
どのメニューも健康的で生活習慣病の予防にもなりますので、ぜひお試しください。
- レシピ① 豆腐とさば缶のしょうが煮
- 豆腐とサバ缶を使ったしょうが風味のさっと煮は、体の中からほかほかと温まる一品です。タンパク質と飽和脂肪酸がしっかり取れるので脂質異常症改善に役立ちます。サバ缶を買い置きしておけば、新鮮な魚が手に入りにくいときでも手軽に使えて便利です。缶汁ごと調理すれば、魚のうま味がたっぷりなうえに、栄養も丸ごと摂ることができます。
■材料(1人分)■
(266kcal/食塩相当量1.8g/調理時間約15分)
もめん豆腐 1/2丁
サバ水煮缶 1/4缶
ショウガ 1/2かけ
青ネギ 1本
水 1カップ
調味料:しょうゆ、酒、砂糖、みりん 各大さじ1/2
■作り方■
1.ショウガはせん切りにする。青ネギは小口切りにする。
2.鍋に水1カップ、サバ水煮缶の汁、調味料をすべて入れ、1/4に切った豆腐と粗くほぐしたさばの身を入れて、ショウガを散らし、強火にかける。
3.煮立ったらクッキングシートなどで落としぶたをして、中火で5分ほど煮る。
4.器にもり、青ネギを散らす。
- レシピ② 豚肉と根菜のフライパン蒸し
- 豚肉と根菜を一緒に蒸し煮にして、ぽん酢風味でさっぱり仕上げた一皿です。根菜は食物繊維が豊富で脂肪の吸収を抑え、排出をうながす作用があるので、お肉と相性が良いです。
蒸し料理は野菜の栄養を逃さずたくさん食べられるので、脂質異常症改善の食事におすすめです。
■材料(1人分)■
(280kcal/食塩相当量1.5g/調理時間約15分)
豚もも薄切り肉 90g
塩こしょう 少々
レンコン 60g
ニンジン 小1/2本(50g)
シイタケ 2枚
青ネギ 1本
酒 大さじ1
A:ぽん酢しょうゆ 大さじ1、ゴマ油 小さじ1、白いりゴマ 小さじ1
■作り方■
1.豚肉は長さを半分に切り、塩こしょう少々をふる。れんこんは3~4mm厚さの半月切りにする。ニンジン、シイタケは細切りにする。
青ねぎは小口切りにする。Aの調味料を混ぜ合わせる。
2.フライパンにレンコンとニンジンを並べ、豚肉を広げてのせ、シメジものせたら、酒大さじ1をふりかける。
3.ふたをして、中火で5~6分ほど蒸し焼きにする。
4.豚肉に火が通り、野菜が柔らかくなったら、全体をざっくり混ぜ合わせて器にもり、タレをかけ、小口切りにしたネギを散らす。
- レシピ③ ネバネバオクラ納豆
- オクラ、ナガイモ、メカブ、納豆の4つのネバネバ食材を使ったごはんのお供にピッタリの一品です。ネバネバ食材は水溶性食物繊維が豊富で、中性脂肪やコレステロールを減らす作用があるため、脂質異常症改善の強い味方です。
ごはんにかけて食べるのはもちろん、冷奴やそば、うどんなどにかけてもおいしくいただけます。
■材料(1人分)■
(91kcal/食塩相当量0.5g/調理時間約10分)
オクラ 6本(60g)
ナガイモ 30g
刻みメカブ 20g
ひきわり納豆 25g(1/2パック)
青じそ 2枚
しょうゆ 小さじ1/2
■作り方■
1.オクラはゆでて、小口切りにする。ナガイモは皮をむいて1㎝角に切る。青じそは千切りにする。
2.ボウルにオクラ、ナガイモ、メカブ、納豆を入れて、ねばりが出るまでよく混ぜあわせ、最後にしょうゆを加えてまぜる。
3.器にもり、青じそをのせる。
3. 改善の進め方
脂質異常症(高脂血症)を食事で改善するために、まず試してほしいことと、その効果的な進め方を説明します。
・まずは、平日と休日の1日の食事内容を書き出してみましょう
食事改善を始めるためには、食べ方の問題点を把握する必要があります。そのためにおこなってほしいのは、食事の記録をとることです。
食事の内容を書くなんて面倒だと思われる方も多いでしょうが、まずは、平日と休日それぞれ1日分の食事内容を書きとめてみましょう。自分がどんな食事をしているのかを客観的に振り返ることで、食材や調理法の偏り、過不足などがわかり、目標を立てやすくなります。
食事内容を写真や文字で記録できるスマートフォンのダイエットアプリなどを活用してみるのもいいでしょう。
・主治医と相談し、3か月間の改善目標を定めましょう
食事を記録して食べ方の問題点が見えてきたら、改善するための目標を決めましょう。自己流にはせずに、主治医と相談して考えることが大切です。
あまり高いハードルを設定するとモチベーションが維持できないかもしれないので、無理なく継続できて、効果がありそうなものを2つほど決めて下さい。たとえば、1日1食は魚料理を食べる、毎食1皿以上野菜料理を食べる、揚げ物は週1回に控える、などはいかがでしょうか。
4. 薬を飲むようになったら食事療法をやめてもいい?
先述したように、脂質異常症(高脂血症)の治療は、生活習慣の見直しが基本です。薬物療法が始まったならなおのこと、今まで以上に食事療法にしっかり取り組んで、体調管理に気を配らなくてはいけません。
運動による改善
食事と並行して取り組んでいただきたいのは、運動による改善です。適度な運動を行うと基礎代謝量が増え、痩せやすくかつ太りにくい体に変わっていきます。
また、中性脂肪が減少しHDL(善玉)コレステロールの増加が期待できるため、脂質異常症(高脂血症)の改善につながります。運動を継続することで、血圧の安定や高血糖の改善、血管を強化し血栓をできにくくするなど、動脈硬化の予防にもつながります。
では、どのようなポイントで運動を行うのが良いのでしょうか。
厚生労働省では、脂質異常症(高脂血症)を含む生活習慣病患者の場合は、血圧があまり上昇せず、エネルギー消費量の大きい運動が望ましいとしています。体感としては「楽である」または「ややきつい」と感じる程度の運動です。運動習慣のない方はいきなり「ややきつい」運動をしてしまうと長続きしないので、まずは「楽な運動」を継続するところから始めてみましょう。慣れてきたら「ややきつい」と感じる運動に移行していってください。
1分当たりの脈拍数の目安は、20代で150回、30代で145回、40代で140回、50代で135回、60代で125回とされています。ただし、持病などによっても変わってくるため、まずは医師と相談しましょう。
運動をしている中で、簡易的に脈を取りながら行っていくと自分にとって適正な運動がわかります。
脈を測定するときは、手首の関節の少し下の親指側を、人さし指と中指、薬指の3本で、少し強めに押します。
手首で脈の測定が難しい方は、首の頸(けい)動脈で測定することも可能です。
まずは無理をせず散歩程度から始めて、徐々にゆっくりとしたジョギングや水泳、球技やダンス、ジムトレーニングなどに挑戦していってください。
ただし運動を行う際にも注意点があります。動悸が激しい、体温が高い、吐き気やめまいがする、お腹の調子が悪い、足にむくみがあるなど、普段と違う症状がある場合は、無理をせずその日の運動は取りやめるようにしましょう。
また、膝や足の関節症の方も注意が必要です。急性冠症候群、心筋炎、心膜炎、重症不整脈、心不全、腎不全などの既往症がある方は、運動を行う際は医師に必ず相談をしてください。
脂質異常症(高脂血症)の治療では、食事療法と運動療法が第一選択で、改善が見られないときには薬物療法を行います。どんなお薬を使用するかは、検査結果を踏まえて医師が決定します。
薬物療法に関して詳しく知りたい方は「脂質異常症(高脂血症)の治療薬について」をご覧ください。
脂質異常症(高脂血症)の症状改善や悪化回避には、食事療法と運動療法を併せておこなっていく必要があります。治療を始める際は医師と相談をして、目標値を定めて進めることが重要になります。
しかし、明確な目標があっても長期にわたる治療はモチベーションを維持することが難しく、また特に忙しく働いている社会人にとっては、定期的に病院やクリニックに通う時間を捻出するだけでもかなりの労力とストレスがかかります。診療をズルズルと後回しにしてしまうこともあるでしょう。
そんな時は通院の必要がないオンライン診療を検討してみてください。オンライン診療とは、スマートフォンやPCのビデオ通信機能を利用し、自宅やオフィスで遠隔で診察を受けることができる、国が認めた新しい診療形態です。
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国立循環器研究センター「循環器病情報サービス」「脂質異常症」といわれたら
日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス」P4,P5
日本栄養士会全国病院栄養士協議会「脂質異常症の食事療法」
厚生労働省「運動基準・運動指針の改定に関する検討会 報告書 運動のメッツ表」P52
厚生労働省「体力に応じた運動」
日本動脈硬化学会「動脈硬化の病気を防ぐガイドブック」治療 運動療法