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糖尿病 学び | 医師監修

糖尿病の治療、食事・運動について

目次
糖尿病の治療の目的
血糖値コントロールが必要な理由
血糖値のコントロール方法
糖尿病治療を成功、継続させるコツ

糖尿病の治療と聞くと「インスリン注射」を連想される方も多いのではないでしょうか。 しかし実際のところは、治療の大部分は、食事療法と運動療法になります。 食事療法と運動療法で血糖値のコントロールができない場合に初めて、薬物療法が検討されますが、今回は、各治療法の概説とポイント、そして注意点にはどのようなことがあるのかをまとめました。

糖尿病の治療の目的

糖尿病は生涯を通して、いかにうまく付き合っていくかがポイントとなる疾患です。 血糖値を下げることは治療の手段であって、目的ではありません。本来の治療の目的は、糖尿病診断ガイドラインにより以下のように定められています。

「高血糖に起因する代謝異常を改善することに加え、糖尿病に特徴的な合併症、および糖尿病に併発しやすい合併症の発症、増悪を防ぎ、健康人と変わらない生活の質(quality of life:QOL)を保ち、健康人に変わらない寿命を全うすることにある」

出典:糖尿病治療ガイドライン2016「糖尿病治療の目標と指針」

生活の質(QOL)を保った状態でより良い人生を送るため、糖尿病の人はいかにして症状の悪化を避けるか、また糖尿病予備軍の人はいかにして改善もしくは現状維持を目指すか、そのポイントを学習していきましょう。

血糖値コントロールが必要な理由

初期の糖尿病は、検査をすると血糖値が高いというだけで、ほぼ無症状です。しかしその状態に甘んじて何の対策も取らずに高血糖値状態を放置すると、体中の血管が傷つき、長い時間をかけて様々な病気を引き起こします。太い血管がダメージを受けると脳梗塞や狭心症などの症状へと、毛細血管がダメージを受けると神経障害や網膜症、腎症などへと進行してしまう場合があります。
これらは、一般的に「慢性合併症」と呼ばれます。

何らかの自覚症状があらわれるときは、糖尿病がある程度進行しているということですので直ちに措置をとらなければいけません。この状態になると完治はかなり難しく、症状の進行を抑えることが治療の目的となります。何の処置もせず放置すると症状は進み、最悪の場合は失明や足の切断、人工透析へとつながってしまいます。

怖い話ばかりをしましたが、糖尿病もきちんと取り組めば、合併症を防ぐことができます。血糖値コントロールをすることは、重症化を防ぐと同時に、前向きな見方をするならば、糖尿病の治療にきちんと取り組むことで、健康的な生活習慣を実践できる、ということにもつながるといえるでしょう。
ここからは具体的な血糖値のコントロール方法について見ていきましょう。

血糖値のコントロール方法

糖尿病の治療は、血糖値のコントロールが基本となりますが、その手段としては食事療法、運動療法、薬物療法の3つが中心となります。

1. 食事療法

私たちは食物からエネルギーを得て活動しています。摂取した糖質は体の中で分解されてブドウ糖となり、血液の中をいつも流れています。血液中の糖の値、これが血糖値です。
血液中の糖は、たまりすぎないようインスリンというホルモンによって一定の濃度に保たれていますが、このインスリンのシステムがうまく機能しなくなってしまうのが糖尿病です。

食事療法とは、いわば体にあるインスリンの状態に見合った食物をとること、といえるでしょう。その要素はカロリーであったり、働きを助ける栄養素であったり、食事習慣であったりします。基本ルールさえ守れば、食べてはいけないものは何もありません。
まずは身長から適正摂取エネルギー(カロリー)を導き出し、それを朝・昼・晩バランスよく摂取できる、栄養素も考慮した献立を決定します。カロリーや栄養素の詳細は「糖尿病食事療法のための食品交換表」を参照すると便利です。

「食品交換表」は、それぞれの栄養を多く含んでいる食品を6種類に分類しています。

食品交換表

医師や管理栄養士から食事指導を受けた経験がある方は、「食事指示票(食事指導票)」を受け取ったこともあるのではないでしょうか。食事指示票には、患者が守るべきエネルギー量(単位)が食品ごとに記載されています。

●ポイント
食事療法では毎日のちょっとした心がけが大切です。
よく噛んでゆっくり食べる、腹八分目で押さえる、寝る前には食べない、といった基本的なことはもちろんですが、最近は食べる順番に配慮するという方法が、簡単に実行でき、かつ効果も高いということで注目されています。

食事の際には以下のような順序で食してみてください。
①まず野菜を食べます。糖の吸収をゆるやかにしてくれます。
②次に汁物を食べます。満腹感を増し食べすぎを防いでくれます。
③次に主菜(肉や魚)を食べます。身体に必要なたんぱく質を摂取します。
④最後にご飯を食べます。炭水化物を最後にとることで、急激な血糖値の上昇を防ぐことができます。

誰でも簡単にできる方法なので、是非実践してみてください。
●注意点
すでに糖尿病を起因とした合併症を起こしている人は、合併症の治療も含めた食事療法が必要になります。食事療法の基本は先述した内容と同じですが、合併症の種類により、食品・栄養素の摂取量がより制限されたメニューになります。

・脂質異常症(高脂血症)の合併症がある
エネルギー摂取量を減らし、また飽和脂肪酸、ショ糖・果糖の摂取量をできる限り少なくしましょう。コレステロールが1日300mgを超えない食事を心がけましょう。

・高血圧の合併症がある
血圧値は、食塩の量に大きく影響されるため、食塩摂取量は1日6g未満にしましょう。

・腎臓の合併症がある
慢性的に尿中にアルブミンが排泄されている場合は、摂取タンパク量を0.8~1.0 g /kg(標準体重)に制限しましょう。
また、同時に高血圧も合併している場合は、食塩摂取量も制限されることがあります。

そのほかの合併症においても同様に注意が必要になりますので、医師と相談しましょう。

2. 運動療法

糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病があります。1型糖尿病は子どもや若年層で多く見られる遺伝的要因が高い糖尿病で、2型糖尿病は主に、肥満、過食、運動不足といった生活習慣を起因とする糖尿病です。糖尿病患者の95%は後者の2型糖尿病です。

生活習慣が原因で糖尿病になった2型糖尿病患者にとっては、運動療法を行って体内の糖の利用率を高めることは、血糖値をコントロールする有効な手段の1つです。筋肉量が増えることで糖代謝があがり、また余分な脂肪細胞が減ることでインスリンの効き目が高まります。

●ポイント
脂肪を効率よく燃焼させるには、有酸素運動が効果的です。治療の一環だからといって特別なことをする必要はなく、好きなスポーツや、日常的に行えるウォーキングなどでも十分に効果が期待できます。強度はちょっときついと感じる程度が理想的です。

また筋肉量を増やすためには、筋力トレーニングを入れると効果的です。これも特別な器具など用意する必要はなく、自重トレーニングやテレビで紹介されている簡単なトレーニング、インナーマッスルを意識した呼吸法などでも効果を期待できます。
運動をする時間としては、血糖値のピークとなる食後1時間から1時間半あたりが理想的でしょう。

ただし糖尿病の方が運動をするときは、低血糖に対する準備を必ず行ってください。また、強度の強い運動をする必要はありませんが、軽度の運動を最低でも週に3日以上行わないと、運動療法としての効果はでてきません。
加えて、運動すれば食事療法はしなくてもいいということではありません。無理なく継続できる運動療法を、食事療法と並行して行っていくことが大切です。

●注意点
運動療法が逆効果となる場合もあります。たとえば、次のような場合には運動を制限したり禁止したりすることもあるので、医師に相談しましょう。
・血糖値が極端に高いとき
・糖尿病のために眼底出血が見受けられるとき
・糖尿病のために腎臓機能が低下しているとき
・心臓などが悪いとき など

また、運動する際は、自分の足に合った靴を選ぶことを心がけてください。血糖コントロールが悪いと、足の感覚が鈍くなることも多いため、怪我をしていても気づかない恐れがあります。また、血糖コントロールが悪いと細菌に抵抗する力が弱くなっているため、怪我をした患部から細菌感染を起こす可能性があります。

運動が終わったあとは、汗をかいた足をよく洗って乾燥させ、清潔な状態を保つようにしましょう。そのうえで、怪我がないかどうかチェックするようにしましょう。
あわせて、「脂質異常症・高脂血症とは?」に書かれている運動療法をご覧ください。

3. 薬物療法

食事療法や運動療法を行っていても血糖値の改善がされない場合に、薬物治療を行います。薬物療法で使用される薬剤には、大きく分けて経口血糖降下薬とインスリン注射薬があります。
どの薬剤を使用するかは、年齢や肥満の程度、合併症の程度、肝・腎機能、インスリン分泌能やインスリン抵抗性の状態などを含めて、医師と相談のうえ決めます。

糖尿病の薬には、種類によって摂取時が食前や食後だったり、摂取量がそれぞれ異なったりと、複数の薬を服用している場合は煩雑になりがちです。もし薬を飲み忘れてしまった場合でも、自分で勝手に薬の量を調節したり、違う時間に飲んだりすることは止めて、医師に相談をするようにしましょう。

くり返しとなりますが、糖尿病の治療は食事療法と運動療法が柱です。薬物治療は補助的な役割を担っています。薬が処方された後も、食事療法と運動療法は継続する必要があり、またそれにより薬の更なる効果が期待できます。
薬の種類には、インスリン注射のほかに、経口血糖降下薬やインスリンの分泌を促進させる薬があります。経口血糖降下薬には、過剰な糖を排泄する薬とインスリンの分泌を促進させる薬があります。

インスリン抵抗性改善系
インスリン分泌促進系
投吸収・排泄調整系
出典:チーム医療を担う医療人共通のテキスト 病気がみえる 糖尿病・代謝・内分泌 経口血糖降下薬の種類と作用

ここまで、食事療法や運動療法についてお伝えしましたが、そもそも糖尿病の方は、ウィルスや細菌などに対する抵抗力が低下しているため、風邪や発熱などさまざまな感染症になりやすいと言われています。
糖尿病の方が感染症にかかり、発熱、下痢、嘔吐、食欲不振になり、食事ができないなどの一過性の状態をシックデイ(体調の悪い日)と呼んでいます。このような状態だと、普段はインスリン薬を使用していない方でも、高血糖になることがあります。

「シックデイかな?」と思ったときは、安静にして水や温かいスープなどで十分に水分補給を行い、消化の良いおかゆやうどんを摂取するようにして、医師に相談しましょう。
相談するときは「いつから起きているのか、どんな症状なのか、食事は取れているか」などを伝えられると、なお良いです。「備えあれば憂いなし」ということわざもあるとおり、普段からシックデイになったときにどういう対応をするか医師と相談をしておくのも良いでしょう。

糖尿病治療を成功、継続させるコツ

糖尿病治療を成功、継続させるためには、一喜一憂しすぎないことです。糖尿病は、適正な血糖値のコントロールを行うことができれば、重い合併症を防ぐことが可能な病気です。
1人で頑張るとストレスに感じてしまうこともあるかもしれません。生活にかかわる周りの方をはじめとした、医師や管理栄養士もあなたを支えるパートナーの一員です。
しかし、忙しい生活を送っている方も多くいらっしゃると思いますので、相談だけの通院をすることが難しい場合もあると思います。

そんな時に、お役に立てるのが当院のようなオンライン診療です。当院では糖尿病についてもオンライン診療で診察できますので、糖尿病の可能性があれば診察をご検討ください。

出典:
日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイド2018-2019」
日本糖尿病対策推進会議「糖尿病治療のエッセンス」
日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイドライン2016」糖尿病治療の目標と指針
日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイドライン2016」運動療法
日本糖尿病学会「糖尿病療養指導の手引き」
国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター「糖尿病の急性合併症のはなし」
国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター「シックデイ」
日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス」P4,P5
日本栄養士会「脂質異常症の食事療法」
日本糖尿病学会「糖尿病食事療法のための食品交換表」
国立循環器研究センター 循環器病情報サービス「脂質異常症」といわれたら
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014」P7
日本腎臓学会「4.急性腎障害と慢性腎臓病」
医療情報科学研究所「チーム医療を担う医療人共通のテキスト「病気がみえる 糖尿病・代謝・内分泌 食事療法
サノフィ株式会社「DMTOWN」運動療法はなぜ必要?:基本的な考え方

この記事の監修者

Dクリニック東京ウェルネス 院長
渡邊 康夫 (わたなべ やすお)
【略 歴】
日本大学医学部大学院修了。
日本大学医学部付属練馬光が丘病院 内科,日本大学医学部附属板橋病院 救命科CCU,川口市立医療センター 循環器科,東京臨海病院 循環器科,敬愛病院 敬愛病院附属クリニックでの勤務を経て、現在に至る。

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